彼の素顔は甘くて危険すぎる

「ボーイフレンド ピアノ デキル?」

翻訳機を使わなくても、簡単な会話なら出来るアーロン氏は、ニヤッと不敵な笑みを浮かべた。

彼氏がピアノが出来るかって?
何故、今そんなことを聞くのだろう?と思ってた、次の瞬間。

「ウシロ ピアノ ボーイフレンド ダヨネ?」
「え?」
「Stop!No peeking!(訳:見ないで)」

どういうこと?
不破くんがここにいるわけないのに。

不思議に思っていると、アーロン氏は翻訳機を使って説明し始めた。
そこには、少し前からうちらを凝視している人がいて、その人物が今ピアノを弾いているという。

自分がラウンジに到着した時には既に弾いていたから、気付きもしなかった。

グランドピアノだから、屋根部分が持ち上がっていて、私の角度からは人物は見えない。
少し体を横にずらして見ようとすれば見えそうな気もするけど。

アーロン氏が言うには、私の背後にある硝子にずっと視線が向けられているのに気付いたという。
しかも、彼は楽しそうに……。

『彼氏を嫉妬させて、愛情を確かめてみない?』と。

ピアノを演奏しているのが不破くんだとして、彼を嫉妬させて愛情を確かめる。
……なんて恐ろしいことを。
黒豹に変身して、速攻で襲われちゃうじゃない!

ブンブンブンッと顔を横に振って拒絶したのに、アーロン氏は『俺に任せて』と翻訳機を通して訴えて来た。
そして、私の顔に近づけ、ほんの少し顔を傾け、ニヒルな笑みを溢した。

まるでキスしてるかのように、見せるために。

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