彼の素顔は甘くて危険すぎる
ご両親と離れて暮らす大変さは分かっているいつもり。
だけど、私という存在も今はあるわけで。
それでも結果的に、アメリカの大学に進学するつもりなら引き留める理由が思いつかない。
だって、私だって自分にとって好きなことをしようと思っているのだから。
彼にだって、将来を考えて選ぶ権利はある。
メディアに出ない彼だからこそ、音楽はどこにいたって作れるわけで。
日本にいなくたって、作曲も作詞も出来るし、レコーディングだって出来る。
わざわざ日本で活動しなくたって十分なほど実力だってあるわけだし。
私の存在なんて、きっと選択肢の1%にも満たない存在だと思う。
言いたくないというより、言いづらいのかな?そう思えた。
私に背を向け、本棚のデッサン画を眺める彼に向って問いかけた。
けれど、返事はない。
彼が何を考えているのか。
私には分からない。
ただ言えることは、私と違って、幾つかある選択肢の中から何かを選ぼうとしているということ。
私はそれを見守るしか出来ない。
「ひまりはさ、俺のこと、どう思ってる?」
「え?……どうって」
「このまま、ずっと付き合ってたら、その先に将来を考えるとか出来そう?」
「へ?」
「変なこと、聞いてごめん」
「何かあったの?」
「………」
彼は溜息を吐きながら、デッサン画を戻して振り返った。
「米国の永住権、21歳未満の子までは無条件なんだけど、それを超えると手続きする義務が発生するんだよね」
「………永住権」
「ん」