彼の素顔は甘くて危険すぎる
ひまりの自宅で夕食をご馳走になった俺は、大量の画材の荷解きを手伝い、そろそろ帰宅しようと片付けをしていると。
「不破くん、ちょっといいかな」
「ん?」
突然、ひまりが背中をトントンと叩いた。
「どした?」
「あのね」
「ん」
「お願いごとがあるんだけど」
「お願いごと?」
「うん」
ひまりからお願いされるなんて滅多にない。
いつも俺のいいなりというか、主導権が俺にあるというか。
ひまりは自己主張しないで静観するタイプだから、彼女のお願いごとが予想できない。
けれど、可愛いひまりのお願いなら、どんなことだって無条件で聞いてやるのに。
彼女は申し訳なさそうな表情で、言い出し難そうにしている。
「言ってみろ」
「……あのね」
「ん」
「美大に合格したら」
「……ん」
「無条件でお願いごとを1つ聞いてくれる?」
「うん、いいよ」
「いいの?」
「ん。ってか、ひまりのお願いごとなら、いつでも無条件で聞くけど?」
「えっ?!」
「あ、でも」
「な、なに?」
「殺して、別れてみたいな類じゃないやつな」
「それはないっ!!怖いよっ」
「フッ、なら、何でも聞いてやる」
「本当に?」
「うん。……例えば?」
「例えば?……今は言えない」
「例えばなのに?」
「うんっ」
俯いて顔を赤くしてるってことは、俺が嬉しくなるようなことらしい。
それなら、当然無条件で聞き入れてやるのに。
どうせ、お揃いのヘアピンが欲しいだの、どこどこに一緒に行ってみたいだの、よくあるおねだりがいい所で。
ちょっと変化球で際どいラインをついて来たとしても、御姫様抱っこして欲しいか、ヌードを描かせて欲しいくらいなもので。
直球勝負するような子じゃないから、俺としては何が来ても万事OKなのに。