彼の素顔は甘くて危険すぎる
(ひまり視点)
10月下旬。
母親との約束で、美大に合格したら『ピアスホールを開けてもいい』というのがある。
それを楽しみにしてる私は、毎日不破くんから貰ったお揃いのピアスを眺めている。
何かの宗教にでも入ったのかと思うくらい、それを崇めてると言っても過言じゃない。
本棚の一角にレースの敷物を敷いて、その上に大事に鎮座させている。
そしてそれに毎日手を合わせて、合格祈願をしてるんだけど。
受験日まであと2日。
正直、面接だけなのに緊張しすぎてご飯が喉を通らない。
万が一、不合格でも一般入試を受けるつもりだけど、センター試験で高得点を取れる自信がないから、何としても推薦枠で合格しないと。
10日ほど前に、彼と約束したことがある。
約束というより、おねだりというべきなんだろうけど。
美大に合格したら……。
こういうチャンスは滅多にないだろうから、ここぞとばかりに皆におねだりしておくつもり。
お兄ちゃんが医大に合格した時に、それを間近で見ていたから。
大抵のことなら『合格』と引き換えに叶えて貰えるということ。
兄は『一人暮らし』と『新車』と『卒業旅行代』と『最新のパソコン』をおねだりしていた。
しかも、それら全てを手に入れたのを昨日のことのように覚えている。
その後、年上彼女が出来て、彼女のマンションに住むようになったけど。
兄の背中を見ていたこともあり、交渉次第で無限の可能性というのを教わった。
それは家族だけでなく、彼氏にも通用すると兄に教わり、不破くんにおねだりしてみたんだけど。
……兄の言う通り、すんなりとOKして貰えた。
あとは、合格するだけ。