彼の素顔は甘くて危険すぎる

「……何?」
「別に」

下駄箱で待ち伏せし、彼が上靴に履き替え教室へと向かうそのすぐ後ろを背後霊のように後をつける私。
その気配を感じ取ったのか、階段の踊り場で声を掛けて来た。

珍しく発声した彼。
だけど、『何』と二言じゃ厳しい。
もっと会話らしい言葉を発して貰いたい。

あ、そうか。
私から話し掛ければいいのか。

「土日は何して過ごしてるの?」
「………」

声を出せ!声を……!
『は?』的なニュアンスで小首を傾げて終了って、あんまりなんだけど……。

「朝、何時頃に家出るの?」
「………」

うっわっ!
今度は一瞥してスルーしたよ。
頼むから会話してよっ。
こっちは気になってちゃんと寝れない日々が続いてるってのに!

「隣の席だしさ、今日一緒にお昼食べる?」
「………」

なーーーーにっ、それ!!
今、一瞬足を止めたけど、すぐさま歩き出して、完全に無視したよ。
振り返ることも見ることもせずに無視かーーーいっ!

こっちは勇気出して話し掛けてるってのに!
もうっ、どうしたら会話してくれるんだろう?
完全に手詰まりなんだけど。

背の高い彼を背後からじーーっと射抜く勢いで見つめると。

「何がしたいの?」

キターーーーーーーーーッ!!
やっと会話する気になったよ!!

「不破くんのこと、もっと知りたいなぁと思って」
「………フッ」

えっ……。
何、その顔。

教室に到着した私たち。
私はいつも一番乗りで登校してるから当然なんだけど。
彼もいつも結構早めで。

だから、今。
8時5分の教室には、私と彼の2人きりで……。

彼は足を止めて僅かに顔を傾け、鼻で笑った。

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