彼の素顔は甘くて危険すぎる

仰向けだった彼は私の方に寝返りを打って、ぎゅっと抱き締めてくれる。
ふわっとボディーソープの香りが鼻先を掠め、ドキッとした。

けれどそれ以上、彼は何もしようとせず、微動だにせずに目を瞑ってる。

きっと、彼なりの優しさなのだろう。
『無理強いはしない』というのが、彼の口癖だから。

煽るようなことはしょっちゅう口にするのに。
いつだって理性を保ってくれているみたいだから。

そんな彼の優しさが当たり前になっていて。
それが心地いいとさえ思えるんだけど。

麻友ちゃんの友達で、同級生の仲のいい子が彼氏でもない人に襲われかけたという話を聞いた。
好きでもない人にされるくらいならと、改めて考えさせられた。

焦っているわけではないけれど。
大学生になったらお酒を飲む場もあるらしいし。
不破くんではない、好きでもない人と飲む機会もあるかもしれないし。

色々なことが頭の中でぐるぐると廻って。
これが運命なら、きっと後悔しないと思えるから。

彼の背中に腕を回してぎゅっと抱き締め返す。
今という一瞬が幸せだと思えるから。

「それ以上したら、制御出来ないからな」
「………ん」

彼から最終通告を受けた。
やっぱり、優しい。
警告をしつつ、拒絶することもせずに、ちゃんと私の気持ちも大事にしてくれるあたり、カッコよすぎる。

そんな彼の胸に顔を埋めていた私は、少し顔を持ち上げて……。

「あのね」
「……ん?」
「ピアスの穴を開けたからね」
「うん」
「強めの鎮痛剤を飲んでるの」
「………ん、え?」
「だから、今日なら……」
「っ……、いや、ひまりっ、それ、鎮痛剤の悪用だからっ」

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