彼の素顔は甘くて危険すぎる
マスクしてるし、眼鏡かけてるし、長い前髪で表情はよく見えないけど。
静まり返る教室で、『音』はちゃんと聞き取れたよ。
確かに鼻で『フッ』と笑った。
どういう意味?
あっ……。
『不破くんのこと、もっと知りたいなぁと思って』と言ったから、私が好意を寄せてると勘違いしたのかも。
うん、きっとそうだ。
「べっ、別に、好きになったとかじゃなくて、ただ気になるというか……不破くんじゃなくて、何ていうか……」
「フッ」
あぁ~~っ、また笑われた。
どう言えば理解して貰えるんだろう?
どストレートに聞いてみる?
否定されたら、その先問いただせない。
やっぱり、証拠を掴んでから詰問しないとダメだ。
彼はいつも通り、Bluetoothで音楽を聴き始めた。
怠そうなのに眼鏡をかけてるから机に突っ伏すこともせず、寝る素振りも見せない。
いっそのこと、眼鏡取って寝てくれたらいいのに。
睡眠薬を仕込んだお茶でも飲ませた方が早そうだけど、さすがにそんなことは出来ない。
薬が自宅に腐るほどあったとしても。
自席に着き、荷物を解く。
いつもみたいに暖房のスイッチを入れ、花の水を取り替える。
彼は聴き入ってるようで、そんな彼を盗み見して……。
***
放課後。
彼が帰宅するようだ。
今日は尾行してみよう。
うん、何事も情報収集は大事だもんね。
校門を出た彼を少し離れて後を追う。
最寄り駅に着いた彼は迷うことなくホームへと向かう。
通学手段は電車らしい。
10分ほどすると、電車が到着し、その電車に乗り込んだ。
すかさず私も隣の車両に乗り込む。
ドア越しに彼を眼で捉えると、長い脚を組んで凭れていた。