彼の素顔は甘くて危険すぎる
「好きな人とかじゃないんだけどね」
「うん」
「隣の席の男の子が、ずっと気になって……」
「カッコいいの?」
「分からない」
「えっ?」
「髪はボサボサで眼鏡かけてて、長い前髪で顔を隠してるから表情よく見えないし」
「……ん」
「話し掛けても無言だし。たまに声聞いたとしても『うん』とか『何?』とかでね」
「ん」
「その短い単語ですら、声がめっちゃ小さくて聞き逃しそうなほどだし」
「消極的な人なの?」
「どうだろ?やる気がないタイプなのかと思うけど、その彼と瓜二つの人と別の場所で行き会ったことがあって」
「何なに?どういうこと?」
話の流れで、麻友ちゃんにあの日の出来事を話してみた。
ナンパ男に絡まれた日のことを。
「じゃあ、ひまちゃんの絶対視感がそのイケメン王子と隣の席の子が同じに見えるってわけだね?」
「うん」
「ひまちゃんの絶対視感は間違いないと思う。私もある程度は視感能力ある方だと思ってるけど、ひまちゃんほどじゃないもん」
麻友ちゃんは水彩画が得意で、人物画より植物とか風景を描くのが好きらしい。
抽象的な淡いタッチで、見る人を癒すような作品が多い。
それに比べて私の絵は、リアル感を追及する感じで。
白い紙から物が飛び出して来そうなほど、明暗や質感を大事にしてる。
上野駅からJR山手線内回りに乗った私たちは、新宿で乗り換えをするため、一旦下車した。
麻友ちゃんとはここで別れて、乗り換えの電車を待っていた、その時。
「あっ……」
視界の奥に、あのイケメン王子様をロックオンした。