彼の素顔は甘くて危険すぎる
(不破視点)
日曜日の夕方。
朝から事務所のレコーディングスタジオでアルバム用の編集作業をしていた俺は、キリのいい所で終わりにして、事務所スタッフに挨拶をして家路についた。
最寄駅から電車で新宿へと。
乗り換えのためにホームの階段を下りながら、首を回す。
一日中譜面と楽器に集中してたせいで、首と肩が怠く重い。
筋肉を解すように首を回し、手で首筋を揉んでいた、その時。
「不破くん」
聞き慣れた声がした。
無意識に声のする方に視線が向き、視界に映ったのは隣の席のヘルパーさん。
いつものように視線を落とし、俯き加減になって気づく。
足下に映ったのは上靴ではなく、お気に入りの編み上げブーツ。
……ここ、学校じゃない。
やべぇ。
バレたか?
ってか、俺、まだ何も言ってない。
今ならまだ間に合うか?
行く手を阻むかのように前に立ちはだかる彼女を避けるようにスルーして、その場を通り過ぎる。
振り返ることも出来ず、そのまま歩き続けた。
怖ぇぇぇっ。
無意味にドキドキすんだけど。
ホームの結構端の方まで歩いた俺は、柱に隠れるようにしてもたれ掛かった、次の瞬間。
「不破くん、……だよね?」
マジ怖ぇって。
なにこれ、ホラーじゃん。
隠れたはずの俺の視界に彼女が現れた。
しかも、瞬きもせずにガン見してるし。
「人違いですよ」
「そんなはずないっ」
「なぜ、……そう思う?」
「私の、……絶対視感がそう言ってるもん」
何だ、それ。
初めて聞く言葉だ。
「絶対、……しかん?」
「うん」
「だから、……何?」
「不破くん、だよね?」
この女、何がしたいんだ。