彼の素顔は甘くて危険すぎる

乗り換えの電車が到着した。
彼女を完全無視して車両に乗り込むと、俺のあとをつけて彼女も乗り込んで来た。

同じホームで待ってたわけだから、行く方向は同じなのかもしれない。
だけど、離れてたっていいはずだ。
いや、ただのクラスメイトでお隣の席だというだけなのに、何故、俺の真横にこいつはいるんだ?

車窓外を眺め、彼女の存在を無視してると、夕方のラッシュ時ということもあって、身動き出来ないほど混雑している。
ドアに寄り掛かり、彼女に背を向けた、その時。

「痛っ……」
「あ、すみません」

無意識に声に反応してしまう。
聴力はかなりいい方。
僅かな音でも音感は聞き取れるし、大抵一度聞けばメロディーを覚えられるほど耳は良い。

そんな俺の耳が、彼女の声を聞き洩らすことは無い。
自然と視線で声のする方に向けると、彼女の頬骨の辺りが軽く切れてるように見えた。

背の高いサラリーマンのビジネスバッグの金具が顔に当たったらしい。
眼に入らなくて幸いだけど、さすがに顔を怪我するのはかわいそうになって……。

「っ………ありがとっ」
「向こう向いてろ」

彼女の腕を引き寄せ、ドアと自分の間に入れてやった。
そして、俺の顔を見上げる彼女の頭を鷲掴みし、窓の外へと無理やり顔の向きをずらして……。

完全にバレたな。
ってか、仕方ないというか。
さすがにあれを見て放置するのもどうかと思うし。


あ~マジで、どうしよう。

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