彼の素顔は甘くて危険すぎる
降りる予定の駅に到着し、彼女に聞こえるように耳元に呟く。
「ここで降りるから」
「………うん」
何か言いたげな感じもしたが、満員電車で話すような非常識な人間ではないらしい。
俺が降りてもついて来なかった。
一瞬だけ振り返って彼女を見ると、口元で『ありがと』と言った気がした。
俺はそんな彼女に背を向け、軽く片手を上げた。
明日、学校休むかな……。
***
翌朝。
諦めて登校すると、いつも下駄箱付近で待ち伏せしていた彼女の姿が無い。
下駄箱を確認すると、既に登校しているらしい。
彼女のローファーがちゃんとある。
何だか拍子抜けしてしまった。
質問攻めに遭うかと思っていたのに。
教室に入ると、彼女は花瓶の水を取り替え、カーテンを開けたり、いつも通りだ。
いや、違うか。
ガン見が無くなった気がする。
昨日のあの一件で、俺と王子様が同一人物だと分かったから、興味が無くなったということか?
ヘルパーの橘さんは、本当に変わってる子だ。
何を考えてるのか全く読めない。
今まではガン見される側だった俺が、今は俺が彼女をガン見してる。
『like』でもなく『love』でもなく、『interest』でもない。
ミステリアスな彼女を解き明かしたくて、『why?』といった感情だ。
通勤通学のラッシュ時の電車が嫌で、ずらして登校してることもあり、早朝の教室はいつも二人きり。
いつもなら気配を殺して曲を聴き始める所だけど、今日は止めた。
隣りの子が気になって仕方ない。
「薬、塗ったか?」
「ッ?!………はい」