彼の素顔は甘くて危険すぎる
頬の傷に手が伸びていた。
しかも、何だろう?
言葉に壁がある気がする。
前なら『うん』だったのに、今は『はい』と返って来た。
完全に距離を取られた感じ。
何故?
俺が誰だか分かったんだから、親しく話し掛けてくるもんじゃねぇの?
あー、これだからヘルパーさんは分かり辛いんだよっ。
まぁ、俺が王子様だと分かったとしても、『SëI』だとは気付かれてないはず。
距離が出来たのなら、好都合か。
体の向きも視線もいつも通りに戻して、イヤホンを耳に入れると。
「昨日はありがと」
お礼は言えんじゃん。
完全無視するのかと思ってたのに。
「どう致しまして」
スマホを立ち上げ、曲を再生する。
昨日のガンガン攻めて来た彼女とは違い、少し緊張してる感じの。
それでいて、これ以上は近づきません的な雰囲気を醸し出す彼女。
お互いにこれ以上は近づかないでおこう、的な。
彼女の性格からして、誰かに言いふらす感じではないし。
そもそも彼女が同級生とべらべらと話してる所を見たことがない。
友人関係が悪い感じはしないが、どちらかというと、俺と同じように壁を作るタイプっぽい。
だから、不思議と安心感のようなものを感じるんだ。
編曲に使うための楽器を模索するため、色んな楽器の曲を聴いてると。
『誰にも言うつもりはないから安心して』と書かれた付箋が机に貼られた。
ぽつりぽつりと登校してくるクラスメイト。
俺はその付箋を小さく丸めて筆箱に入れた。