彼の素顔は甘くて危険すぎる
(ひまり視点)
月曜日の朝8時15分。
ちらほらと登校してくるクラスメイトに挨拶しながら、隣の席の彼を盗み見する。
やっぱり、昨日のあのイケメンは不破くんだったと判明した。
正直名前を聞いたわけでもなく、誰なのか分かるような会話をしたわけでもない。
ただ単に助けてくれただけ、とも取れる行動だったけど。
助けて貰ったのにあれこれ質問攻めにするほど、私だって馬鹿じゃない。
空気だって読めるし、相手の気持ちだって理解しようと思える。
だから、せめて御礼くらいはちゃんと言いたい。
それが、見当違いで他人だったとしても悪いことじゃないからスルーして貰えるだろうし。
「昨日はありがと」
彼がいつも通りイヤホンを耳にしたのを目にして、咄嗟に声に出ていた。
すると、
「どう致しまして」
私の言葉が聞こえたらしい。
ちゃんと相槌が返って来た。
しかも、昨日の出来事をしっかりと肯定する返事で。
あんなに避けるように逃げてた彼だもの、きっと不本意なんだと思う。
すし詰め状態の電車の車内だったから、気遣ってくれただけ。
彼はいつだってそうだ。
ナンパ男に絡まれてる時も手を貸してくれたし。
階段でよろけた時だって手をかしてくれた。
ドッジボールで怪我した時だって助けてくれたし。
昨日だって……。
だからきっと理由があって、学校での彼とそれ以外の彼を使い分けてるんだと。
それを問い詰める資格は私にはない。
彼がどんな人物だろうが、別に大して問題じゃない。
『誰にも言うつもりはないから安心して』
これ以上迷惑はかけられないから、気遣いの御礼は気遣いで返すのが正しいと思った。