彼の素顔は甘くて危険すぎる

下駄箱から自身の靴を取り出そうとした手が止まった彼。
私の声は聞こえているらしい。

「あのね、うちの学校。著名人の子供や芸能人とかが通うから、不祥事とかスキャンダルとかあると学校の回線がパンクすることがあって。だから、朝電車に乗り遅れたとか体調不良で休むとか、そういった類の連絡がしたくても出来ない時はクラス委員が窓口になるから、もし持ってるなら私の連絡先を登録して欲しいんだけど」
「………」

出来るだけ分かるように説明したつもり。
通じただろうか?
結構早口で言ったから、通じなかったらどうしよう。
英語じゃ話せない……。

鞄からスマホを取り出し耳に当て、『School NG!……call me!』職員室の方を指差して必死にジェスチャー。
クラス委員なのに語学力ゼロ。
ホント申し訳ないけど、これで勘弁、限界です。

焦る私は最終手段として、スマホで翻訳アプリを立ち上げようとした、その時。
目の前に彼のスマホが現れた。

「あっ、ありがとっ!えっとね、LINEしてる?分かるかな?」

LINEを立ち上げQRコードを見せると、彼は無言でそれを読み取った。
スマホの活用術は世界共通らしいって、当たり前か。

「いつでも遠慮なく連絡してね」
「………ありがと」
「っ?!……今」

本当に微かに聞こえる程度だけど、耳に届いた。
彼の声が。
少し掠れたような声で、絞り出した感じの。
日本語話せるんじゃん。
あ、でも『ありがと』くらい誰でも言えるか。

「風邪ひいてるのにごめんね、連れまわして。ゆっくり休んでね。私、職員室に挨拶して来るからまた明日ね」

軽く手を振ってその場を後にした。
話す話題が底を尽きたんだもん……。

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