彼の素顔は甘くて危険すぎる

(不破視点)

あっ……、マジでヤバいかも。

今日は朝から刺すような痛みがずっとしてた。
最初は我慢できると思って適当に放置してたけど。
昼過ぎ頃から痛みが少しずつ増して来た。

数年前から腹部に時々痛みがある。
我慢できない痛みじゃないから、適当に過ごしてるうちにいつの間にか消えてて。
痛め止めを飲んだりもするけど、今日ほど持続した痛みを感じたのは初めてだ。

保健室に駆け込もうか。
担任に話して早退しようか、マジで悩んでるうちに放課後になっていた。

**

やっとの思いで駅に辿り着き、事務所スタッフに連絡を入れようとスマホをポケットから取り出した、その時。
あまりの痛さに吐気までして来て、意識が薄れていくのが分かる。

「もしもし?不破くん?」
「………助けて」
「え?……宿題用のプリント忘れてるよ?」
「……な?………て、………マジで倒れそう」
「えっ?どこにいるの?」
「……駅」
「すぐ行くっ」

事務所スタッフに連絡しようとスマホを立ち上げたはずだけど、タイミング悪くヘルパーさんが電話をかけて来たらしい。
無意識に通話ボタンを押していた俺は、事務所スタッフではなく彼女に助けを求めていた。

その後、10分もしないうちに彼女は俺の元に駆けて来た。

「どうしたの?どこか痛むの?」
「……腹、……腹が痛い」
「右?……盲腸かな、ちょっと待ってね」

ホームのベンチに座り込む俺の顔を覗き込んだ彼女は、手で押さえる位置を確認してどこかに電話をかけ始めた。

「あ、お母さん?盲腸の時ってどうしたらいいの?救急車?」

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