彼の素顔は甘くて危険すぎる
(ひまり視点)
「もしもし?不破くんの携帯なんですけど……」
「もしもし?」
「えっとですね、不破くんが、急に下腹部の痛みを訴えたので、今病院に向かってます。私はクラスメイトの橘と申しまして、今彼とタクシーで白星会医科大学病院に向かってるんですけど、本人が痛みで話せそうになくて代わりに電話してますっ」
「ありがとうございますっ!事務所スタッフの山本といいます。直ぐにそちらに向かいますので、それまでお願いしても宜しいですか?」
「あ、はい」
彼に頼まれ電話で説明したけど……。
『事務所スタッフ』という言葉しか覚えてない。
彼が『SëI』なのかもしれないという確率が益々高まった。
今すぐ問いただしたいけど、それどころじゃない。
彼の手が汗ばんでる。
ぐったりと窓ガラスにもたれ掛かる彼の前髪をそっと指先で持ち上げ、額に手を当てた。
汗も掻いてるし、少し微熱があるっぽい。
「2480円です」
「ICカードで」
タクシー料金を払って、彼をタクシーから降ろす。
支えながら入口に向かい、スマホで兄に連絡を入れると。
「ひまりっ!」
「お兄ちゃんっ」
白衣姿の兄が駆け寄って来た。
それと、看護師2人と車椅子も。
不破くんを車椅子に乗せ、あとを追う。
「ひまりはここで待ってろ」
「……うん」
消化器内科と書かれた診察室の中に彼は消えた。
大丈夫かな……。
暫くして、彼のスマホが震えた。
荷物を預かっている私は、そのスマホの画面を見ると、『事務所スタッフ』と表示されている。
もしかしたら、病院に到着したのかも。
「はい」
「もしもし?先ほどお電話頂きました、事務所スタッフの山本です。今、病院に到着したのですが……」