彼の素顔は甘くて危険すぎる
翌日の放課後。
不破くんが欠席だったため、配布物を病院に届けようかと思ったひまりは、事務所スタッフの山本さん宛に電話をかける。
「はい、山本です」
「あの、不破くんのクラスメイトの橘です」
「昨日はありがとうございました」
「いえ」
「今日は何か?」
「今日学校を欠席したので、配布物を病院に届けようかと思うんですが、不破くんに会えますか?」
もし彼が『SëI』なら、面会謝絶かもしれないと思ったから。
連絡なしに訪問して、看護師に預けようかとも思ったけど、彼の様子も気になって。
顔色が少しでも窺えるなら一石二鳥かと思った。
「午前中に退院したので、もう病院にいないんです」
「あ、そうなんですね。もう大丈夫なんですか?」
「一先ずは。今後定期的に検診受けつつ治療は必要なんですけど、日常生活は可能らしいので」
「それは良かったです」
「あの申し訳ないんですけど、自宅に届けて貰えますか?」
「えっ?!」
「担当している女優の付き添いで、私今九州にいるので」
「……そうなんですね」
「お手数お掛けして申し訳ありません。場所、分かります?」
「………いえ」
「では、住所送りますね」
「あっ、えっ?………いいんですか?私に教えても」
「大丈夫だと思いますよ?うちの事務所、学業優先してますから」
あ、いや、そうじゃなくて。
勝手に住所教えていいのか?という質問で。
彼の了解なく知らされてもいいのかな?
山本さんに、彼が『SëI』なのか尋ねたいけど、さすがにそれは出来ない。
喉から今にも言葉が出てしまいそうなのを必死で耐える。