彼の素顔は甘くて危険すぎる
自宅のキッチンでたまご粥を作りながら、山本さんの言葉を思い返す。
『刺激のあるものは喉によくないので避けて貰いたい』
これって、彼は歌手なのでと言ってるようなもの。
だけど、ただ単に風邪を引いてるからとか持病で喉が悪いからとも取れる。
彼が『SëI』だという確率がほんの少し増した気がした。
冷凍庫に冷凍かぼちゃがあったから、それでかぼちゃの煮物を同時に作った。
それらを容器に入れ、出掛ける準備をする。
ダイニングテーブルに『クラスメイトのお見舞いに行ってきます』とメモを残して。
昨日の騒ぎの後だから、きっと名前を書かなくても通じるはず。
今日の授業で取ったノートをコピーし、荷物を纏めて自宅を後にした。
***
ピンポーン。
送られて来た住所を頼りにインターホンを押す。
カチャッ。
「……はい」
ゆっくりとドアが開き、気怠そうに彼が現れた。
片手でドアを押さえ、もう片方の手は前髪を軽くいじりながら。
「不破くん?」
「……え」
俯き加減の彼の顔を覗き込むように少し前屈みになって見上げると、私の声に気付いた彼と視線が交わる。
「何の用?」
「配布物を届けに」
「………ん」
彼は表情を変えずに手を差し伸べる。
早いとこ、配布物を渡して帰れと言わんばかりに。
「あとね、山本さんに頼まれて、お粥作って来たの」
「……え」
「アレルギーとかある?米と卵とかぼちゃは大丈夫だった?」
「………ん、アレルギーは無い」
「良かったぁ」
「………入って」
「いいの?」
「……ん」
彼は顎で中に入れと合図する。
「……お邪魔します」