彼の素顔は甘くて危険すぎる
「気になる?」
「へ?」
無意識に近づいていたらしい。
楽器がある部屋のドアの所で立ち尽くしてたようで、背後から彼が声を掛けて来た。
「このマンション、防音完備だから」
「………そうなんだ」
「弾いて欲しいの?」
「え?………ううん」
「じゃあ、何?」
「別に、…何も」
身長の高い彼が背後から威圧して来てるのが分かる。
声はいつも通りなのに、何でだろう?
ここが彼の自宅だから?
きっと違う。
踏み込んで欲しくない領域に私が立ってしまったからだ。
「何も聞かないんだな」
「……何を?」
恐怖のあまりこれ以上踏み込むのは危険だと脳が警告してる。
「こことここで感じて考えてること、全部」
「っ……」
長い人差し指でこめかみと鎖骨の少し下辺りをツンツンと突かれた。
聞きたいことは山のようにある。
だけど、怖くて聞けない。
でも、聞かなくても……多分、想像してることは合ってるらしい。
『星のように降り注ぐ運命……』
今、耳元で、彼が口ずさんでる。
『SëI』の曲を。
思わず振り返ってしまった。
だって、声が……瓜二つと思えるほどそっくりなんだもん。
自然と絡み合う視線。
黒々と光るその瞳は獲物を狙った黒豹みたいに鋭く、逸らすことさえ許されない。
「俺の素顔知って何がしたい…?」
「別に、何も……」
「こういうこと、期待してんだろ?」
「ッ?!……別にそんなっ」
獰猛な視線の彼は私の腕を掴み部屋の中に連れ込みドアを閉め、私の体を壁に押し付けた。
そして、長い指先が顎を持ち上げた。
「大声出しても無駄だから。ここ、防音完備だってさっき教えたよね?」
皮肉な笑みを浮かべる口角は冷酷な弧を描いた。