彼の素顔は甘くて危険すぎる
前々からこの大きな瞳で俺をロックオンし、いつも何かを探っている。
同じ視線を向けられと、無意識に焦ってしまう。
心の奥底まで見透かしそうで。
そんな瞳を拒絶するように射竦めた、その時。
彼女は物怖じすることなく話し始めた。
「どんな人なのかな?って気になって……」
話を聞けば、俺のこの声が風邪を引いたことによる掠れなのか、持病によるものなのか。
ずっと気になっているらしい。
世の中、潤んだ声質の人間だけじゃない。
俺だって、この声が死ぬほど嫌だった頃もある。
否応なしに掻き消されるみたいな地声が、怯えてるように聞こえたりもするから。
小さい頃はよく虐められたし、馬鹿にもされた。
今だからこそ、この声の特徴を活かして音楽の世界で楽しみを見つけたが、10年前なら本当に発することも苦痛だったから。
「知りたきゃ、教えてやるよ……俺がどんな奴か」
全てを見透かすようなその瞳を捻じ伏せるかのように唇を奪った。
脅しともとれるキスを容赦なくしたはずなのに。
何故か、テンパる俺がいる。
彼女の瞳に映った自分が、見たことも無いほどに情けなく見えて。
彼女は何が起きたのか分からないといった表情で、僅かに震えている。
病院に付き添ってくれて、お見舞いにまで来てくれたというのに。
「ごめん」
傷つけたいわけじゃないのに。
彼女の大きな瞳から、今にも涙が溢れそうで。
「口止め料の代わりだったんだけど……」
ヤバい。
マジで泣かしたっぽい。
……大粒の涙が零れた。
「こんなことしなくたって、誰にも言わないって言ったよね?」