彼の素顔は甘くて危険すぎる
あ、確かにそんなこともあったな。
小さな付箋に書かれたやつ。
「私はっ……ッ……ホントに……んっ……」
ポロポロと零れ落ちる涙を手で涙を拭いながら、彼女はぎゅっと唇を噛み締めた。
そんな彼女を抱き締める。
自分がどんどん卑怯者に成り下がるのが手に取るように分かる。
だから、人と親しくなるのは嫌なんだ。
「何したら、許してくれる?」
「………」
本気で許しを請うつもりは無い。
別に親しくしようと思ってるわけじゃないから、嫌われたままの方が都合がいい。
だけど、無性にこの涙には弱いらしい。
彼女の澄んだ大きな瞳から、幾つもの涙が零れ落ちる度に罪悪感で胸が苦しくなる。
自分でしておきながら、どうにかしたいなんて都合がよすぎるもの承知してるけど……。
「何か、交換条件出せよ」
「……」
「じゃないと、またキスするぞ」
「ッ?!」
彼女の肩がぴくりと跳ねた。
俺の声は聞こえてるらしい。
「黙ってると、キス以上のことするかもよ?」
「んッ?!」
分かりやすいやつ。
軽く脅したつもりが、本気に取ったみたいで目を見開いて俺を見てる。
よし、涙は止まった。
もう脅すのはここまでにしとこう。
「今すぐに答えるのが無理なら、時間をやる」
「え?」
「何かして欲しいことが出来た時に言え。どんなことでもしてやるから」
「………ん」
弱みを握られ、八方塞がりに思えたけど。
この子はそこら辺にいる女子高生とは違うらしい。
ミーハーな素振りを微塵も見せず、どちらかと言えば古風な感じ。
独特の雰囲気を纏って、かなり異次元的な世界観を持っている。
俺が人と同じにしたくなくて壁を作ってるのと似ていて……。