彼の素顔は甘くて危険すぎる

数日後の放課後。
校門を出た俺は、いつも通りに駅へと向かっていると。
後ろから息を切らしながら、橘が駆けて来た。

「ふっ……ゎ……くんっ」
「………ん?」

珍しく呼び止められて、足を止めた。

「この前のあれ、……まだ有効だよね?」
「……ん」

『この前のあれ』
呼び止められた時点で覚悟はしたけど、何だろう?

世間一般的な交換条件だとすると、『付き合って』『彼氏になって』『毎日一緒に帰ろう』的な類だろうけど。
この目の前の子の考えは、どうも読めない。

「何?」
「あのねっ……」
「ん」

近くに人がいるからなのか、周りをちらちらと気にしてる。
そんなに聞かれちゃまずい内容なのかよ。

「とりあえず、歩きながらにする?」
「……うん」

呼吸がだいぶ落ち着いたのを見据えて、ゆっくりと駅へと歩き出す。
彼女は俯き加減で隣を歩く。

何、言い出しにくいようなことなわけ?
思考が読めないだけに、無意味にドキドキして来たじゃねぇか。

「えっとね」
「ん」
「学校以外の、……不破くん描かせて貰えるかな……?」
「え?」

俺を描きたいって、それだけ?
……やっぱり、この子の考えは読めない。

「絵を描くだけ?」
「うん」
「ホントにそれでいいの?」
「うんっ」
「今なら、追加でオプション付けてもいいよ?」
「え?」
「あ、いや、……描くのは全然構わないけど」
「そうなの?」
「ん」
「本当に?」
「ん」
「やったぁ♪」

あ、今めちゃくちゃ可愛く笑った。
こんな顔も出来んじゃん。
いつもガン見か、疑うような視線ばかりだから、意外な発見。

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