彼の素顔は甘くて危険すぎる
(不破視点)
自宅のキッチンで料理をしてる姿をほんの少し覗き見したけど、学校では見せない自然な笑顔が見れた。
きっと、思い描いた味付けになったんだろう。
ブースに入って来た彼女は、俺がいる位置とは正反対側の壁に張り付く感じで腰を下ろし、次々と道具を広げた。
そんなに離れてなくてもいいのに。
もしかしたら気を遣ったのかな。
隣りのドラムの所に椅子があるし、ギターやベースが置かれてる場所の所には、小さな机も置いてあるのに。
風景でも描くみたいに、遠くから眺めて、鉛筆で構図なのかサイズなのか分からないけど何か図ってる。
そして、紙に描き始めたと思ったら、見たことも無い真剣な表情で描き続けてる。
憑りつかれたかのような感じに、どんどん鉛筆を走らせるその表情は、ほんの少し怖さも滲ませて。
これが絶対視感というやつなのかもしれない。
俺には分からない世界だけど、きっと彼女の眼には何かが見えるのだろう。
***
1ページを描き終える度にふわっとした可愛い笑みが溢れるのに気付いてしまった。
きっと、納得できた仕上がりなのだろう。
その笑顔が堪らなく可愛く見えて。
他人に興味がない俺が、久しぶりに興味を示し始めている。
他に、どんな表情をするんだろうか?と。
時計に目をやると18時15分。
夕食を摂るにはいい時間。
あまり遅くなると、ご両親も心配するだろうし。
彼女の傍に近寄っても、全く俺の気配すら感じずに描いてる。
ホント、描くことが好きなんだな。