彼の素顔は甘くて危険すぎる

どこにでもあるようなマンションの3階。
サラリーマン家庭だと分かる感じで、不破くんのお宅にあるようなセレブ感は見られない。
ドラマや映画で観るような一般家庭という部類だと思う。

2DKの間取りで、整理整頓はされている。
冷蔵庫に紙が貼られてるあたり、生活感が出ていて。
リビングのソファーに座ると、暖かい紅茶が出された。

お互いに『絵を描くのが好き』ということもあって。
必然的にデッサンし始めたんだけど……。

『ひまりちゃんを描きたいから、セーター脱げる?』と言われ、中にTシャツ着ていたこともあり、言われるままに脱いで……。
『靴下も……。素足を描きたい』と言われ、一瞬考えもしたけど、別にズボンを脱いでと言われたわけじゃないし、と自分に言い聞かせて靴下を抜いた。

スーッとひんやりする足先。
セーターも脱いでしまったから、少しずつ体温が奪われて……。

リビングテーブルを挟んで向かい合う形で描いてたのに、いつの間にか隣りに移動していて、恐怖を覚えた。

『怖がらないで』これが決定打だ。
眼が完全に別人になってた。

画材道具をトートバッグに押し込め、脱いだセーターとコートと靴下を掴んで裸足のまま玄関へと向かい、靴も抱えてその家を飛び出した。

振り返ることもせず、マンションの階段を駆け下りて。
足に伝わる凍てつくような冷たさも、あの視線に比べたら何倍もマシだと言い聞かせながら……。

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