彼の素顔は甘くて危険すぎる

翌朝の日曜日の9時半。

「ひまり~、まだ寝てるの~?朝ご飯、片付けるわよ~?」
「んっ………んッ……」

朝方まで絵を描いていたせいで寝不足気味。
重い瞼を押し上げ、突っ伏していた机から顔を上げる。

机の上だけでなく、床やベッドの上にまで描き留めた紙が散乱している。
昨夜のイケメン王子の横顔、伏せ顔、後ろ姿、歩く姿、心配そうに顔色を窺う表情……。
脳内に完全にインプットされた彼を複写するかのように、ありとあらゆる角度を描いた。

更には、ギターケースを背負っていた事からの妄想が暴走したようで、弾き語りする様子や作曲してるような様子など、完全に二次元の世界の住人と化して。

「ご飯食べてまた描こうっと」

昨夜のTシャツにショートパンツ姿のひまりは、朝ご飯を食べるために1階に下りる。

「何、その顔っ!真っ黒じゃない……、洗って来なさい」
「………はぁ~い」

一晩中素描書きしていたひまりの手は、鉛筆汚れで真っ黒。
その手で眠い目を擦り、汗ばんだ額を擦ったせいで黒く汚れた状態。
母が驚くのも無理はない。
洗面所の鏡を見て、自分でもハッと驚くほどだ。

トーストを齧りながら、スマホで通販サイトを立ち上げる。
昨夜は興奮していて兄にソフト情報を送るのを忘れていたからだ。

「お母さんっ、お兄ちゃんがソフト買ってくれることになったから、中間テストのご褒美は絵具セットにして~」
「奏汰が買うって?」
「うん!昨日、彼女への誕生日プレゼントを届けた御礼に買ってくれるってことになったの」
「あら、そうなの」

勉強が得意じゃない私を鼓舞するため、母はいつも餌で釣ろうとする。
まぁ、どこの家庭でもよくあるだろうけど。
私の場合は、イラスト関連の商品がその餌になる。

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