彼の素顔は甘くて危険すぎる

普段は長い髪をふんわりとお団子状に纏めていて、今目の前にいる彼女は当然髪を下ろしている。
初めて見るその姿に、思わず手が伸びていた。

細く柔らかい髪を優しく撫でる。
いつもは撫でると言っても後頭部か前髪部分をほんの少し撫でることしか出来ない。
トップにお団子が結われているから、今日みたいに撫でれることが贅沢に感じた。

薬の効きのせいなのか、頬に触れても全然起きない。
ぷっくりと膨らんだ小さな唇も、今なら触り放題。
とはいえ、相手は病人。
手に痛々しく点滴の針が刺さっているのを見ると、心配になる。

「あまり、心配させんな」

シーンと静まり返る部屋なのに、あちこちから視線を感じる。
彼女が描いた俺の絵が、あちこちに飾られ、大小5個あるイーゼルの全部に俺がいる。

何か、不思議な気分だな。

あ、そうか。
ひまりの母親が言ってた絵というのはコレだ。
『彼氏がいる』とは言わなくても、こうも沢山描いて飾ってれば必然と気付くよな。
しかも、毎日のように俺の自宅に通ってたわけだし。

それを考えると、かなりオープンな家族だと分かる。
うちの両親も結構アメリカ生活が長いせいか、恋愛に関して理解度はある方だが、あんな風に相手に優しく接してたっけ?
あまり良い思い出も無いから記憶に殆ど残ってない。

鞄からノートを取り出し、思い浮かんだフレーズを書く。
作詞作曲してるから、歌詞もメロディーも思い浮かんだ時に書くようにしている。

ひまりの部屋と彼女の寝ている姿。
自分の想いも含めて、ノートに音符を落としてゆく。

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