彼の素顔は甘くて危険すぎる

彼の肩を軽く叩いて起こして尋ねると、結構前からいると判明。
起こしてくれたらよかったのに。

額に手を当てた彼は、熱が無いことに安心したようで優しく微笑んだ、その時。
部屋のドアが開き、白衣姿の母親が現れた。

しかも、いつもと表情が違う。
不破くんが来ているからだと思うけど、揶揄うようなそんな視線を向けてくる。

不破くんの家に通うようになって描き貯めた絵が部屋中に散乱してて、いつも文句を言いながら片付けてくれる。
だから、不破くんの存在はかなり前から知っていて。
見る度に『イケメンねぇ』『芸能人でも食べていけそうよ』とか、要らぬことをあーだこーだと言う。

そんな絵の中の人物が目の前に現れたのだから、興奮するのも無理はない。
最近流行のアイドルの推し活をしてるくらいだから、かなりの面食いなはず。

点滴を抜きながら耳元で悪魔の囁きをするしッ!
『邪魔者は退散するから、幾らでもチューしていいわよ♪』って。
母親なのにどういう神経してるんだか。

母親にすっかり気に入られた不破くん。
次来たら絶対質問攻めに遭いそうだ。

「可愛いピンね♪」
「えっ?……あ、何これ」
「……お土産、ロスの」
「あら、良かったわねぇ」
「……ありがと」
「どう致しまして」

いつの間にピンを挿したんだろう。
ロスのお土産だなんて、気を遣わなくてもよかったのに。

指先でピンを確かめていると、彼がもう少ししたら帰ると言う。
久しぶりに会えたのに、もう帰っちゃうの?と一瞬思ったことが顔に出ていたらしい。
彼に突っ込まれてしまった。

しかも、両手を広げて『ぎゅーさせて』だって。
その超絶甘いマスクで言わないでッ!


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