③私、突然お嬢様になりました

「西園寺グループの令嬢としてこのくらいは頭に入れておく必要があること纏めといた。執事の仕事は完璧にこなすって言ったでしょ?あんた、公久様に聞いたけど頭は悪くないみたいだしそれだけが唯一の救いかな」

ムッ。

本当にいちいち言動に棘がある男だ。

「わかった…移動中に確認する」

パンを口に押込み、コーヒーで流し込んだ私はパラパラとノートを捲ってみる。

しかし、隙間なくギッシリと書かれている情報に思わず私の口元が引きつった。

こんな大量の情報移動中に全部覚えろって…?やっぱり悪魔だわ、この男。

でも、馬鹿にされたまま終わるのは癪だし…ね。

どうせできないだろうと思われているのかと考えると余計に腹がたった。

見てなさいよ、完璧に覚えてやるから…!

そう心に誓い、私はノートを掴むと侑也の後に続き寮を後にしたのだった。


――――…


「まぁ、あの方が西園寺の…」

「あらあら、確か今日から転入するって噂、本当だったのね」

昨日訪れた学園の門をくぐると、ちょうど登校時間ということもあって多くの生徒の姿が見える。

見かけない私がよほど珍しいのかヒソヒソと小声で話している生徒達を横目に心の中でため息をこぼした。

…うわぁ、本当にお嬢様学校って感じ。私、やっていけるかな…。しかも、小声で喋ってる内容聞こえてるし。

いかにも「ご機嫌よう」と言ってそうな雰囲気の生徒たち。

そして。

「琴乃様、こちら1年A組が本日より琴乃様が通うクラスになります。私もお側におりますのでわからないことなど何なりとお申し付けください。さ、こちらへ」

車をおりた瞬間に態度を一変させたこの沢城侑也という執事見習いも私が頭を痛める原因の一つ。

顔が引きつりそうになるのをなんとか堪え、「えぇ。ありがとう」と優雅に答えてやる。

私もこの数日で成長したものだ。

ガラリ。

教室の扉を開け、私が一歩教室に足を踏み入れた瞬間。

「……」

「……」

先ほどまでガヤガヤしていたはずのクラスがシーンと静まり返った。
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