③私、突然お嬢様になりました
笑ってはいるが、どこか冷めた様子の彼に私はゆっくりと口を開いた。
「あの…言いたくなかったら私も無理に聞くつもりはないけど、とりあえず…そんな無理して笑わなくてもいいんじゃない?」
一瞬、侑也くんの切なげな表情が今にも泣いてしまいそうに見えて思わずドキッとする。
しかし、それも一瞬で。
「…ふっ。琴乃のくせにわりと鋭いとこつくね?」
次の瞬間にはいつもの意地悪な笑を浮かべると嫌味なセリフを言い放つ侑也くん。
よかった…。少しいつもの余裕が出てきたみたい。
そんな彼に内心、私はホッと胸を撫で下ろした。
「うんうん…!侑也くんはそのくらい口が悪くないと私もしっくりこないよ。調子狂うし、心配になるじゃん」
「は?それ褒めてるつもり?どう考えても馬鹿にしてるようにしか聞こえないんだけど?」
と、口角を上げ黒い笑みを浮かべる侑也くんが私に近寄ってくる。
ちょっと煽りすぎたかな…?
ソロソロと私も彼から距離をとるため、後ろに後ずさるが。
…!!
最後には屋上の扉まで追い詰められてしまった。
「えっと…馬鹿にしたわけじゃなくて元気づけようとしただけで」
「へぇ…?僕を元気づけようとしてくれての発言なんだ…琴乃様は優しいね?」
全然目が笑っていない侑也くんに冷や汗が頬を伝うのを感じる。
「ご、ごめんなさい…!調子にのりすぎました!」
と、彼に謝りつつ、ギュッと目を閉じた時。
抵抗しようと前に出していた腕を引かれ、気づけばギュッと侑也くんに抱きしめられていた。
…へ?
そして、状況が飲み込めない私の耳元で。
「…まぁ、今回の所は僕も執事としてよくなかったし…心配させて悪かったよ」
素直にそう謝ったのだ。
侑也くんが謝った…?
というかこの状況って…なに?
未だに彼の胸の中にすっぽりとおさまっている私の身体。
ドキドキと高鳴る鼓動に合わせて徐々に頬が熱くなるのを感じる。