どんな君も、全部好きだから。
「ごめんね、俺ほんとはこういう性格だから。裏表激しいんだよね。びっくりしたでしょ?」


先輩は少しも申し訳ないと思っていない軽々しい雰囲気でそう言った。

確かにびっくりした。でも・・・。


「・・・夏海くんと何かあったのかな、と思いました。感情を抑えきれないほどのことが。・・・裏表とは思わなかったです」


いつも穏やかな先輩が苛立ちを抑えられないくらいのことが、何かあったんだと。

誰でも心に重くのしかかっていることがあれば平静ではいられないと思う。

その感情を抑えきれないで表に出してしまったことを、『裏がある人』だとは思わない。


「俺が裏ではいつもこんな感じなんだとは思わないの?」

「それは・・・先輩のそういう面を見た回数がまだ少しなので、いつもそうなのかどうかは判断できません・・・」


先輩は少しの間私を無言で見下ろしていたけど、ふいにフッと笑って


「早坂さんて、自分で納得できるまで人の言うこと全然信じないんだね」


と言った。

その笑顔はさっきまで見せていた歪んだものではないし、いつもの爽やかなものとも違っていた。

敢えて言葉にするなら、自然に出てしまった笑顔というか。


「昨日もあいつのこと話した時にそう言ってたね。判断できませんって」

「あ、あの・・・すみません、疑り深いわけじゃないんですけど・・・」

「疑り深いとは思わないけど、バカが付くほど頑固だなとは思った」


人から『バカ』なんて言葉を言われたのは初めてで、私は驚きのあまり目を見開いてしまう。
< 102 / 246 >

この作品をシェア

pagetop