どんな君も、全部好きだから。
この子は俺が何をしていたって『柄じゃない』とは言わないかもしれない。

俺のことをそのまま受け入れてくれる人なのかもしれない。


さっき初めて会ってたった数分言葉を交わしただけなのに、俺はそんな気がしてしまうのを止められなかった。


もっとこの子と話したい。

そんなふうに思ったのは初めてだったのに、この気持ちの高まりを行動に移すことができなかった。

鼓動が速度を上げて、俺の全身が今まで感じたことのないような緊張感に支配されていたから。

こんなことは初めてでどうしたらいいかわからず、俺は無言でただ彼女を見つめていることしかできなかった。

そんな俺を見て少し焦った様子の彼女は「私も本読むの好きです」と言葉を付け加えた。

言った後に少し恥ずかしそうに頬を赤らめた顔が、俺の目に焼き付いた。


結局俺は何も言葉にできないまま、去って行く彼女の背中をただ見送るだけだった。


この日、自分がけっこうなヘタレだということを初めて自覚した。
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