どんな君も、全部好きだから。
あの顔でってなんだよ。

好きでこの顔に生まれたんじゃねーし、この顔でも女と気軽に遊ぶわけじゃねーし。


もはや腹も立たないまま目の前のクレーンに小銭をつぎ込んでいると、運よく景品が取れた。

機械の取り出し口を見ると、よく見るウサギのキャラクターのぬいぐるみが一体コロンと転がっていた。

それが、優依がメッセージのやり取りのときによく使っているスタンプのキャラだと気付いて胸が苦しくなってくる。

諦めなきゃってわかっているのに、こんなわずかな繋がりを見つけただけで動揺してしまう。



「夏海くん」


浮かない顔でウサギのぬいぐるみを見つめていた俺の耳に、ふいに名前を呼ぶ声が聞こえた。

声の主の方に振り向いた俺は、一瞬でどす黒い感情に支配される。

そこには、たまに優依の周りで見かけるあの三年が立っていた。

話しかけられたのは初めてで、俺の胸がざわざわと荒れ始める。


「急に話しかけてごめん。偶然見かけて。俺、去年早坂さんと図書委員で一緒だった宮田っていうんだけど」

「・・・知ってますけど」


自分でも驚くぐらい地を這うような低い声が出た。


「そっか。早坂さんから聞いたのかな」


こいつの口から優依の名前が出るたびに舌打ちをしたくなるのを何とか我慢した。
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