どんな君も、全部好きだから。
「着替えようかな・・・」


お母さんと一緒に軽く昼食を食べた後、汗をかいたので着替えをしようとクローゼットを開けた。

部屋着を選んでいたら、ハンガーにかけてある黒のシフォンのブラウスが目に入って思わず手が止まる。


夏海くんと映画を観に行った日に着た服。

この日の帰り道に初めて『優依』と呼ばれた。

名前で呼んでいいか聞かれたとき恥ずかしくて仕方がなかったけど、嬉しさも確かにあった。


腰をかがめて私の顔を覗き込んでくる仕草にいつもドキドキした。

私の目を見つめる夏海くんの瞳はいつも少し熱を帯びていて、その熱にとらわれると身体じゅうが火照ってどうしていいかわからなくなって。

でもコントロールできない気持ちの高まりに支配されているとき、本当は心地よかった。

夏海くんからはいつも『好き』が溢れていて、それを感じる度に幸せな気持ちだった。


夏海くんが私を呼ぶときの優しい声と穏やかな笑顔が頭に浮かんだ瞬間、


「・・・好き・・・」


気づいたら、そう呟いていた。
< 176 / 246 >

この作品をシェア

pagetop