どんな君も、全部好きだから。
教室の前のドアから出ようとしたそのとき、入ってこようとした人と鉢合わせた。


「あっ・・・」


その人物が夏海くんだったので、私の全身は条件反射のように硬直する。

夏海くんは一瞬何か言おうとしたように見えたけど、すぐに口をつぐんでしまった。


「賢斗おはよー!」

「はよ~夏海」


夏海くんの姿を見るやいなや、みんなが声をかけてくる。


「おー」


夏海くんは私から視線を外してみんなの声に応えた。


さっき言葉を飲み込んだのは、きっと私のため。

私が教室で、みんなの前で話しかけられるのを嫌がったから。


自分が望んだことなのに、私はそのことに・・・寂しいと思ってしまった。


「夏海くん、お、おはよう」


夏海くんが私の横を通って教室に入る瞬間、私は震える声で夏海くんに挨拶をした。

クラスの人がいる中で初めて自分から夏海くんに声をかけた。

小さな声だったから夏海くん以外には聞こえていなかったかもしれないけど。

たった一言のことなのに、私の心臓はドキドキと騒がしい音を立てていた。


夏海くんが驚いた表情で私の方に視線を戻す。

なんだか恥ずかしさがこみ上げてきてしまい、私は下を向いて教室から出た。

急いで目的地に向かおうとしたとき、


「早坂」


と呼ばれて振り返る。


「おはよ」


夏海くんは二人だけのときに見せてくれる優しい顔で私に挨拶を返してくれた。

私はペコリと小さく会釈してパタパタと小走りでその場を離れる。


・・・早くこの真っ赤な顔を治してこなくちゃ・・・。
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