どんな君も、全部好きだから。
「優依、お父さんのシャンプー切れてるの忘れてたのよ。買い物お願いできない?」


帰宅して着替えたところで、お母さんに買い物を頼まれた。


「うん、いいよ。ちょっと本屋さんにも寄ってきていい?」


そういえば好きな小説の続刊が出ていたはず。

お母さんに『暗くなる前に帰ってね』と言われた私はいつも利用しているドラッグストアでシャンプーを買った後、すぐ近くの書店に入った。

新刊コーナーを見渡してみるとやっぱりお目当ての小説が並べられている。

ワクワクしながら一冊手に取ったとき、


「あ、早坂さん?」


ふいに名前を呼ばれてビクッと肩が跳ねる。

聞き覚えのあるその声の主は宮田先輩だった。

学校帰りなのか、制服姿でスクールバッグを肩からかけている。


「こ、こんにちは」

「お疲れ様。偶然だね」


先輩はフッと柔らかく笑って私の方へやってきた。



「あ、その小説新刊出てたんだ。好きなの?」

「は、はい。この作家さんが好きで・・・」

「俺もこの人の小説けっこう読んでるよ。あ、今日は参考書探しに来たんだけどね」


先輩は手に持っている受験対策用の参考書を私に見せながら言った。
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