どんな君も、全部好きだから。
「そう。こんなこと俺が言うのは違うかもしれないけど・・・あいつはやめたほうがいいよ」


そのとき先輩の声の雰囲気が変わった。

いつもの穏やかな空気はどこにもない、どす黒さをまとった声色に心臓がドクンと鳴る。

『あいつ』?

夏海くんのこと?

彼を指す言葉が急に嫌悪感を含んだものになって、私は戸惑いを隠せない。


「付き合ってもすぐ別れて、また新しい彼女つくって、そういうのを繰り返してたみたいだよ。早坂さんのことはどうするつもりなのか知らないけど、あいつと付き合ってもつらい思いするに決まってる」


夏海くんを軽蔑しているような先輩の目に、私の背筋がゾクッとする。

なぜ先輩が夏海くんのそんなことを知っているの?

もしかして有名な話なのかな。


これがまたただの噂だったら『イメージが独り歩き』と思えたかもしれないけど。

なんとなく、先輩は夏海くんと何かあったんじゃないかな、と感じた。

でも夏海くんは宮田先輩のことを知らない口ぶりだったと思う。

先輩の瞳はとても冷たくて、私を通してここにはいないはずの夏海くんを見ているようだった。
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