海月の囁き。
ちゃぷ。ちゃぷ。ざ、ざ、ざぁー……。

白く丸い月。黒い海。

俺は小さな船を漕ぎ出し、独り夜釣りを楽しんでいた。

ふと、波間に仄白く光る海月が二匹揺蕩っているのが見えた。

──否。それは仰向けに漂う女の白い乳房であった。

臍から下は海に潜っている。

目も口もぽかりと開いたままである。

水死体にしては美しい。

気を失っているのなら、助けないと──。

ゆっくりと女に船を近づけ「可哀想に」と独り言た。

手首を掴んだ刹那、女の眼がキロリと動き、俺を射抜いた。

ギョッとして思わず手を離したが、女は身を翻し俺の両肩をぐい。と掴んだ。

そうして口をパクパクと動かし、何事かを告げると、にぃっと嗤い、弾けるように海中へ潜って行った。

女の下半身は、魚のようであった。

しばし茫然と黒い海面を見つめていたが、ふいに女の言葉が脳内で像を結び、俺は猛然と岸へ漕ぎ出した。


──ジ・キ・ニ・ク・ル・ニ・ゲ・テ。


         


         (了)
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