麻衣ロード、そのイカレた軌跡➍/赤き牙への狂おしき刃
その2
夏美



「先輩、あれ…!」

ブオーン、ブオーン、ブブブーン…

その時、あっこが指さした方向には、火の玉川原にいるほぼ全員が視線を向けていた

そのバイクは、土手の石段をまるで龍のように駆け下りてくる

腰をあげ、両足を縦横に屈伸させ、一段一段…

「うぉー!すげー」

「わー!頑張れー」

石段の中央付近まで下ると、一部の掛け声が大きな声援に変わった

「先輩、あれ、もしかして…」

そう…、おそらく本郷麻衣だろう…


...



ブオーン、ブオーン、ブブブーン…

ブブブ…

比較的小柄な体格の少女は降りきった…

「こりゃ、すごい!高原亜咲以来じゃないのか?」

OB、OGの面々も、今、目の当たりにした急降輪に興奮しきっている

そして、バイクのエンジンを切りヘルメットをとると、そのバイクの主はやはり本郷だった

一斉に拍手が沸き起こった

それは、まさにスタンディングオベーションだった

パチパチパチ…

本郷はバイクを降り、ゆっくりテントへと歩き始めた

本郷が進む両脇は、拍手するメンバーで数珠つなぎとなった

「麻衣ー!」

颯爽と大降輪を果たした自分たちのリーダーに向かって、レッドドッグスの仲間たちが、感激した面持ちで駆け寄っていった

本郷は無表情のまま、一人一人、先輩に挨拶しながら、ゆっくり歩いてくる

そして…

本郷が私達の前に近づいてきた


...



「湯本先輩、お疲れ様です」

「お疲れ様…」

あっこはいつになく、”殊勝”に後輩へ挨拶を返した

次に私の正面に立った本郷は、静かな口調でこう言った

「相川先輩、1年間、総長補佐のお役目、ご苦労様でした。本日はよろしくお願いいたします」

「ええ、こちらこそ。今の急降輪、見事だったわ。亜咲が見たら喜んでたでしょうね」

「亜咲先輩は、あんなもんではないですよ。私のは、所詮まやかしです…」

本郷麻衣は鋭い眼光で、呟くように言った

この子は何を言おうとしているのだろうか…

全く、底知れない少女だ

私たち二人は、しばし、”いつも通り”の睨めっこをしていた





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