麻衣ロード、そのイカレた軌跡➍/赤き牙への狂おしき刃
その3
夏美



ところが…

このあと、また展開が変わった…

...


「先輩方のご理解を得ましたので、私と鷹美はドッグスの無断集会決行に対して、厳しく対処するつもりです。場合によっては断罪します」

荒子の集会前の怪訝な表情は、やはり”この件”を気に留めていたんだろう

「ただ、奴らの言い分を一切無視という訳にもいきません。そこで、真澄先輩があいつらから聞いていることがあるそうなので、直接我々が問いただす前に、この場で今から証言をいただきたいと思います。いいですか?」

えっ?

そうか…、うっかりしてた!

真澄の”さっきの”は、伏線だったんだ

北田久美を通じて、ドッグスサイドの今の心情を察しているというくだり…

これは、やられたかもだ…


...



私が見たところ、真澄は事前に本郷とコンタクト済だ

本郷は”この後”の”弁明”を、しっかり用意していることだろう

そして、集会の動機とやらの情状に”衣”をつけるのが真澄になる

これからじゃべる”作り話”が、その”衣”だわ

ふん、ここに至って本郷の作為は、もう疑う余地がない

週末の集会の件は、あえて漏れるような細工をしていたんだ


...



まもなく、真澄がテント内に再び入ってきた

達美と私が執行部の一年間、この真澄がしゃべる姿には、正直言ってうんざりだった

それこそ、夢にまで出てきたわよ、真澄のこのしゃべる顔

こいつ、突っ込みどころが鋭い上、攻めはえげつなく、しかもネチネチ系だ

”アンタ、同じ南玉連合の仲間だろうが…、いい加減、勘弁してくれよ…”

何度、心の中でこうぼやいたことか…

しかし、今日の真澄は”証言者”で、いつになくしおらしい

感情の入れ方が巧みなので、聞いてる方はいつの間にか頷いちゃうんだよな

「まず、彼女らの胸の内をここで伝える私の立場を、あらかじめ了解いただきたいのですが…」

ご丁寧にも、前節まがいに自分の”中立”をアピールする気らしいわ

こういうとこは抜け目ないわ、真澄の奴

まあいいわ、全部聞こうじゃないの(苦笑)


...


真澄の演説?が始まった…

「…」私はずっと、荒子が総長に就くことを熱望していました。その私にとって、”今日”という日は、嬉しくて嬉しくてたまりませんよ、そりゃあ。なので、その記念すべき集会を”汚した”1年連中は、断じて許し難い。まずは、この気持ちが前提です」

最初にズバッときたわ

「どっちサイドも心構えがなってない。けれども、自分らが1年の時はどうだったか…。単純に今の親衛隊、ドッグス間とは比較できないにしても、やっぱり向き合う者同士で激しくやりあってて、先輩には大目玉を喰っていましたよ。こんなバカ連中は初めてたって。でも、どうしてもムキになっちゃって…」

真澄のヤツ…

私らとの時と、都合よく均っしゃう気だよ

「要は双方、信ずる熱い思いのぶつけ合いです。実際、旧執行部の達美や夏美とは、ついこの間まで激しくやり合ってましたし…」

私らの追い落とししか考えていなかったくせに…


...


「…それと今の1年連中のどこが違うのか。そう冷静に捉えて、双方には中立な気持ちを心がけ、接したつもりです。そういう目線で、彼女らから得た胸中を述べさせてもらいます」

ここで中立という言葉が出た

しかし、結局は”打算”に目が行ってしまってる

私にはわかるのよ

真澄が本郷にすり寄るのは、荒子の基本理念を拡大志向に曲解してるからだ

荒子は浸透させることを手段に考えてる

”近道”は拒絶してるんだよ、真澄…

理由は簡単なんだ

理念の踏み絵が無いと、淡水と海水が一緒になって早晩、みんな窒息しちゃうよ

荒子とあんだけ近くにいたのに、目の前のおいしい匂いで真澄は頭がマヒしてるんだろう

ホント怖いよ、集団って…




< 25 / 53 >

この作品をシェア

pagetop