麻衣ロード、そのイカレた軌跡➍/赤き牙への狂おしき刃
その10
麻衣



「それじゃあ、テント設営時と集会最中に騒ぎを起こした当事者、それにドッグスの代表、本郷はここに残れ。後は外に出て待ってろ」

いづみ先輩は、てきぱきと指示を出した

テントを出て行く”親衛隊だった”奴ら…、足取りは重そうだ

しかも、揃いも揃って顔面蒼白だよ

実にわかりやすい生き物だな、コピー連中は

ハハハ…


...



そしてテント内には、私を入れて12人が残った

私は前に移動し、浅黒のチビに視線を向けてみたよ

うわっ、コイツ…

歯を食いしばって、今にも泣き出しそうで目がうるうるだ

まあ、悔しいんだろう

この単純明快な喜怒哀楽…

思わず笑っちゃうんだが、こいつらの脳内分泌、大丈夫か?

まあ、それは置いといてだ…

冷静に考えてみれば、総長の私的組織はそりゃ、まずいよな

荒子さんの判断は全うだと思うよ、客観的にみて

特攻隊長の入れ替えもしかりだ

この執行部、なかなかやるわね

トップ二人は、火花散らすライバルってとこだろうに…

うーん、これは…

切り崩しが難儀になってきたかなあ…


...



さて…、一転して、テント内は異様な静けさに包まれた

さっきと構図は変わった

簡単に言えば、ここからは、私たち1年の今日の行いに対する制裁だ

私は執行部3人を凝視し続けた

荒子さんと矢吹先輩は椅子に腰かけ、ほとんど動かない

その後ろをいづみ先輩がちょこちょこ動いてる

まるで、二人の言葉を通訳してるみたいだ

フフフ…、この辺のやり取りは見逃せないわ

それにしても、いづみ先輩は働き者だなー

汗、びっしょりだしね(笑)

タオルでも差し出すか、ハハハ…


...


「よし!これから今日のお前らの所業に対する、裁定を言い渡すぞ。双方の言い分は、十分汲んだ上だ。いいか、テント設営でドッグスが6人を出したってのは、旧親衛隊に対する出し抜きと考えられないでもないが、結論つけるには不十分とした」

荒子総長といい、この人達はまるで軍隊だな

まあ、ちゃっちゃと歯切れ良くていいけどね

「よって、9人全員に鉄拳制裁を与える。まず、本田、片山、立花、前出ろ!」

いづみ先輩は早口で”判決”を下し、旧親衛隊からぶん殴るようだ

「よし、3人、一列に並んで姿勢を正せ!手は後ろだ。歯を食いしばってろ、しっかりとだぞ」

いづみ先輩が軍曹気取りで指揮をとってる

そして、荒子総長が椅子から立ち上がった…

「お前ら、自覚が足んねーんだよ!行くぞ…」

そう言った瞬間、3人を右手で一気に張り倒した

まさにバシッ、バシッ、バシッとリズムよく快音が鳴った

それはビンタではあったが、思いっきり”鉄拳”だったよ


...



「うっ、うっ…」

3人のうち、二人はそのまま床に崩れ落ちて、泣き出した

「バカ野郎ー、メソメソすんじゃねえ!立て!二人とも…」

いづみ軍曹は情け容赦ないわ

二人が流しているのは、悔し涙だろう

はは…、まあ、悔しいよな

悪いのは、こっちだもんな

私が言うんだから間違いない

フン、やっぱり浅黒だけは性根張ってるじゃん、さすがだ

今にも泣きだしそうなツラだが、必死に踏ん張ってるわ

鼻の穴、ラッパみたいに広げてさ

健気だな


...



「次、ドッグスの6人、前出ろ!」

さー、来たぞ…

「麻衣…」

すぐ後ろにいる久美が、私の左ひじあたりを掴んで、私の対応を確認してる

私は久美の顔を見ずに言った

「お前ら、出なくていい」

「???…」

久美は絶句してるよ(苦笑)




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