麻衣ロード、そのイカレた軌跡➍/赤き牙への狂おしき刃

それはオールオンの夜だった②/イカレロードの帯同者、結集す

その1
真樹子



スナック”ヒールズ”の看板が見えた

ああ、ここだ…

”ここ”に来るのは初めてだったので、ちょっと迷ったけど…

うす暗い電光看板の下に立ち止まって、私は硬くて重い扉を開いた

わあー…、中はさらにうす暗いや

「失礼します…」

「おー、よく来たな。まあ、入れよ」

あー、あの人…

奥のボックスで、瓶ビールを片手でラッパ飲みしてる大柄の男

あれは確か…、倉橋さん…


...



「また会ったな、お嬢ちゃん。ハハハ…、」

私は店内をひと通り見回したが、ざっと見る限り、他に人はいなかった

少々躊躇したが、私は店に入り、奥に歩を進めた

「まあ、ここ座れや。ああ、今グラス持って来るからよ…」

「あのう…、麻衣さんからは剣崎さんがいるからって聞いてますが…」

「ああ、剣崎の兄貴は急な幹部の集まりでさ、静岡の叔父貴のとこだ。それで、今日は俺にってな」

「ああ、そうですか。それで、麻衣さんは…」

「10分くらい前に電話あったわ。集会が終わったからこっち向かうと言ってたよ。お前が来たら、相手しておいてくれってことだった」

「はあ…」

そうは言っても、私の顔、こわばっていたと思う

そりゃそうだよ…

相和会本部付の武闘派・剣崎組で、ひと際恐れられてる撲殺男だよ、この人…

たしか、2年半前、この店で砂垣さんは壮絶な流血リンチの場に遭遇したという

その時、血しぶきを顔面に浴びて、舌なめずりしてた執行人がこの倉橋さんだったとか…

そんな人とこんなとこで二人っきりだもん

怖いって、ホント…

「ハハハ…、心配するな。無理やり乱暴なんかしやしねえよ。まあ、オレの風体じゃ説得力ないか…、アハハハ…」

このキレた笑い顔も怖いってば…


...


「失礼しまーす!」

そこへ、若い女の子の声だ…

「あー、岩本さん?」

「リエ!」

それは”仕事人”迫田リエだった

助かった…

予定より早く来てくれたわ、リエの奴…

「おお、いらっしゃい。今日はかわいいお嬢ちゃんが次々とやって来て、はは…、ホステスの面接みたいだな。アハハハ…」

リエの奴、店の奥へ向かう足が一瞬止まっちゃったわ(苦笑)

「リエ…、この人、相和会の幹部さんで、麻衣さんの用心棒やってる人よ。普段は怖いけど、私たちには手を出さないから安心して。私の隣座って、ここに…」

「…ええ。あの、じゃあ、失礼しますね…」

リエ、やっぱり顔引きつってるし…

席につくと、私にぴったり体寄せてきてるよ、ははは…

倉橋さんはそんな私ら二人には見向きもせず、機嫌よく、冷蔵庫からビールを取り出してる

わー、4本も抱えてきてるよ

ドン!と、倉橋さんは勢いよくテーブルにビールを置いた

いや、叩きつけたって感じかな

「ほい。今日は貸切にしてあるし、遠慮いらねえからよ。ラッパ飲みでいけ!」

参ったなあ…




< 42 / 53 >

この作品をシェア

pagetop