『ヒートフルーツ【全編ナレーション版】/クロニクル・ロールストーリー

全編の序章・プロローグ/澄んだ黒の根、そして赤へ…

全編の序章・プロローグ/澄んだ黒の根、そして赤へ…


その1


然るべき眼前の敵は駆逐する…。
その意味するところは、何物にも屈しない意志とそれの裏付けとなる力が必須だった。

有紀は高校1年の時点で身長が180近くあり、体重も70キロを超えていた。
しかも筋肉質でありながら、その筋肉を適度な脂肪が覆い、柔軟性を付した水泳選手のような瞬発力を伴う剛柔両面と、体操選手のような人間離れの俊敏さと即応能力を持ち得ていた。
加えて、女子プロレスラーの如き重戦車を思わせる圧倒的パワー…、そのいずれもほぼほぼパーフェクトに備えの、文字通りのオンナ怪物であった。

ゆえに、彼女の目に叶ったオンナたちはいずれも身体能力が抜きん出ていた訳で、結成メンバー12名の紅組は文句なく一騎当千の強者ぞろいでそのスタートを切る。

ここに新たな転換を持った赤塗りロードは、都県境で覚醒された女子中高生を、更なるネクストステージへと誘ってしまう。
それは赤塗りを起草・提唱した他ならぬ紅丸有紀、本人の捉えた範疇を超えて…。


***


”私はあくまで、自分たちがやりたいことを実践する障害となる輩を駆逐する目的で力の結集を形作った。前に出れない少女たちに勇気を与えるため、力強さと機動力は必須だったから、バイクに乗ってのチームとしたよ。だがよう、それって、何も男に対抗した女暴走族じゃないんだって!…まあ、こうもビジュアルが嵌まっちゃ、この時世、脚光を浴びてるレディースってことになるか…。しまったかなあ~”

有紀が結成した紅組は一躍、都県境の発熱少女たちを熱狂させた。
オトコの添え物じゃない、女だけのチーム…。
力強さをどっと漂わせた強そうなお姉さんたちが、そこのけそこのけで女だけでバイクに跨りブイブイ言わせてる…。

この痛快感は、この地の女子中高生を単なる自己奮起で留まらせる制御機能を崩壊させた。
その結果、有紀に触発された眠れる果実たちは、発熱を超え、もはや臨界の域に達していったのだった。

”このままじゃ、私の行動は、この地で女暴走族を量産させてしまう!それは私の願うところじゃないって!”

怪物・紅丸有紀は、自分の実践した赤塗りムーブメントが、結果として、男の力の象徴たる暴走族に対抗する”オンリーウーマン”の走り屋集団という構図を創造してしまったことに、焦燥感を抱くのだったが…。
だがしかし、彼女はここに至る前に漠然とながら、こういった展開にはリスクヘッジを敷いていた。

そこには、この都県境の悪ガキ連中を統括していた、大立者・黒原盛弘との相互理解があった。


***


当時、東京埼玉都県境の不良、悪ガキ集団は主に、二つの波流があった。
ひとつはやんちゃな文字通りの活きのいい不良少年たち…、もう一方は、ヤクザの威光をバックにしてその筋の二次組織に好んで甘んじる愚連隊系列の若者たちであった。

さらに、この地域では、終戦時の諸事情もあり、多くの在○朝○人の住人が多く、必然的に在○と純潔の日本人というオポジション関係が強く影を醸していたのだ。

もっとも黒原盛弘その人も、”生粋”の在○であったが、その懐の深い人間性に純潔グループの大半は国籍の壁をこえて、彼を慕い、結果、都県境の悪ガキたちは黒原が各グループを吸収することなく、諸派併存状態で共存関係をキープできていたという、歴然とした前提がまずはあった。

さらに、東京北部ではこれも同じく在○のヤクザが仕切る星流会が、従来から同胞という共通軸でガキ勢力に介在する色気を伺わせていた。
星流会のトップで、自らもコテコテの在○であった諸星は、近い将来、日本は高度成長期の比を超えた好景気を向かえると予期し、その時期が訪れた際は、ガキ世界で産み落とされるであろう消費回路に食い込めめれば、莫大なシノギのルートを得られるはずと目算していたのだ。


***


しかし、このエリアには黒原盛弘という敢然たる存在があり、諸星が容易にガキ界隈に手を突っ込むことは叶わずにいたのだ。
諸星はこの状況を冷静に受け止め、分析し、黒原の影響力が消えるまでは表立った行動には出ず、その間、敢えて彼らのフレームからはみ出た人間を取り込み、ヤクザの二次集団として育成する方針に切り替えた。
その果実が、愚連隊系グループとなる…。

そして、いよいよ日本の経済力が本格的に海外を凌駕する状況を目にし、諸星は明確にガキ市場の確立ビジョンを抱くこととなる。
それは…、あくまでガキ市場から金を吸い上げるのは、自主独立のガキどもであって、自分たちはそこからのロイヤリティーをいただくところにとどめるというスキームだった。

後の極道業界では、諸星スキームとして、星流会の親筋である関東広域組織直系、東龍会2代目会長である坂内が後押し実現化を図る原型は端的に言って、ヤクザの2次組織化ではなく、ガキ勢力とのパートナーシップという目線だったのだ。

さらにこの都県境には、星流会を介した東龍会が肩入れするもうひとつの理由があった。

それは、戦後日本を牛耳ってきた関東と関西の2大広域暴力団組織どちらの傘下にも吸収されず、独立系ヤクザの雄としてその名を馳せてきた、創始者・相馬豹一率いる相和会の基盤が東京埼玉都県境だったということにあった。




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