魔法のいらないシンデレラ 3
「る、瑠璃!」

鞄を持って玄関を出ようとしていた瑠璃が振り返る。

「しーっ!一生さん、すみれが起きちゃいます」
「あ、ご、ごめん」

慌てて口を押さえる。

「それより瑠璃、病院って。もしかして、産まれそうなの?」
「ええ、おそらく。まだ陣痛は強くないんですけど、病院に電話したら来て下さいって」
「分かった。じゃあ急いで着替えてくるよ」
「いえ、私一人で行きます。タクシーを呼んであるので」

一生は驚いて目を見開く。

「一人で?!いや、俺も行くから、とにかくちょっと待ってて」

踵を返す一生を、瑠璃が止める。

「いいえ、一生さんはすみれのことをよろしくお願いします。今は朝早くて、子どもは病院に入れませんから。9時になったら、すみれを連れて病院に来てもらえますか?」
「で、でも、それじゃあ瑠璃が…」
「私は一人で大丈夫です。一生さん、すみれになるべく普段通りにさせてあげて下さいね」

そう言ってニッコリ微笑むと、瑠璃は玄関から出て行った。
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