魔法のいらないシンデレラ 3
(まさかあの日、俺が連れて帰った事を覚えていないなんて…)

その上、鍵がないと言っている。

(じゃあ今もあの鍵は、ドアポケットの中って事か…)

やれやれと肩をすくめる。

あの夜小雪に、無防備過ぎると注意すると、ボロボロと涙を溢し始めたっけ。

山下としては、号泣する小雪に相当面食らってしまったのに、肝心の小雪は何も覚えていないらしい。

そして鍵を失くした事にも、あっけらかんとしている。

(ほんとにこの子は…。危なっかしいなあ)

今日もちゃんと帰れるのだろうか、と山下が心配した時、ほら、もう帰るわよ、と、正面の子が小雪を立たせた。

と、次の瞬間、ガターン!と大きな音が店内に響く。

「ちょ、ちょっと!小雪!」

ふらついて椅子とテーブルにぶつかる小雪を、もう一人の子が必死で支えようとする。

「あれー?なんかちょっと、ふわふわする」

そう言って小雪はテーブルに手を付き、お皿がガシャンと音を立てた。

「ちょっと、だめ!食器が割れちゃうでしょ!」

必死で小雪を歩かせようとするが、なおも小雪は他のテーブルにぶつかりそうになっている。

山下は立ち上がって近付くと、小雪の身体を支えた。
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