魔法のいらないシンデレラ 3
山下は、大きく息を吐き出した。

「ごめん…。俺が勝手な事したばっかりに。それに鍵も、ドアポケットに入れた事をあの日もちゃんとメモしておけば…」
「いいえ!稜さんのせいなんかじゃないんです。全部私が、私の甘さのせいです。親の言う事もその通りなんです」

そして小雪は、稜さん、と真剣な顔を向ける。

「最後に1つだけお願いがあります」
「う、うん。何?」
「私が仕事を辞めて山口に帰る事、誰にも言わないでおいてもらえますか?最後まで笑顔で働きたくて…。仕事の引き継ぎなどは、きちんと書類にしてなるべく支障が出ないようにしますから。どうか、お願いします」

そう言って頭を下げる。

「…帰るのって、いつなの?」

小さく山下が問いかけると、小雪はゆっくり頭を上げた。

「親はすぐにでもって言うのを、せめてもう少し時間を下さいって頼みました。だから、年内いっぱい…」
「年内…。あと3ヶ月ちょっと」

日が暮れていく中、二人は黙ったまま肩を並べていた。
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