魔法のいらないシンデレラ 3
「うわ、凄い数だな」

実家の2階の小雪の部屋には、東京のアパートから送ったたくさんのダンボール箱が、荷解きされずにそのままの状態で積まれていた。

「そうなのー。ほら、私こっちでは、抜け殻みたいな生活だったから。でも良かった!そのままにしておいて」
「う、うん、まあそうだけど」

山下は、宅配業者に電話して集荷に来てもらうと、全て自分のマンションに送るよう手配した。

「はあー、すっきり!」

ベッドの端に座って、小雪は広くなった部屋に両手を広げて笑う。

山下は、そんな小雪にやれやれと苦笑いしながら隣に腰掛けた。

小雪は嬉しそうにしみじみと言う。

「良かったなあ、私。なんだか一気に幸せになれたシンデレラみたいな気分。ダンボールだらけの部屋から、憧れの東京へ!って」
「そうか、良かったな。こっちは、散々苦労してシンデレラを探し回った王子様の気分だけどね」
「稜さん、私を探してたの?」

キョトンとした顔で、小雪が山下を見上げる。

「ああ。でも君はガラスの靴を残してくれなかった。何も手がかりがなかったんだ」

そしてうつむき加減で話し始める。

「クリスマス・イブに、君のアパートに行ったんだ。加藤さんに、後悔だけはするな、手放したものは戻って来ないんだからなって言われて。でも…遅かった。俺は君を手放してしまったんだ」

小雪は驚きつつ、黙って山下の横顔を見つめる。
< 227 / 236 >

この作品をシェア

pagetop