魔法のいらないシンデレラ 3
「それでね、夕飯の支度をしてたら、家の電話が鳴ったの。稜さんに、出ないでいいからって言われてたのに、私、うっかり出ちゃって」

小雪の手料理を食べながら、山下は、え?と顔を上げる。

「それで?誰からだったの?」
「それがね、私がもしもしって出たとたん、ワシだワシ!って」
「ワシワシ詐欺?最近はオレオレじゃないのか…って、小雪、大丈夫だったのか?」
「うん。だって、お父さんだったんだもん。家の電話番号、これで合ってるのかなって確かめたんだって」
「ええ?お父さん、あれだけオレオレ詐欺のこと気にしてたのに?」
「でしょー?それで私も、詐欺みたいだから、もう家の電話にかけちゃだめよって言って切ろうとしたの。そしたら、子どもは出来たか?って」
「はやっ!ゴホッ」

山下は、思わず味噌汁にむせ返る。

「大丈夫?稜さん」
「ああ、だ、大丈夫」

お茶を飲んで、ふうとひと息つく。

「なんかさ、俺、今まで周りの人から、お前おもしろいな、とか、陽気な奴だなとか言われてきたんだけど、いやー、小雪ファミリーには敵わないな」
「ん?それ、つまりどういう事?」
「そうだなー、つまり…。俺と小雪の子どもは、最強に陽気でおもしろい子になるって事かな?」
「うふふ、それは楽しみだね!」

ニッコリ笑う小雪の笑顔に不意打ちされ、山下は顔を赤くする。

「よし、お父さんの為にも、早く子ども作るぞー!」

山下がそう言うと、小雪も、おおー!と右手を高く挙げる。

二人は、顔を見合わせて微笑んだ。

やがて季節は変わり…

4月に青木と奈々、5月の加藤夫妻に続き、6月に山下と小雪も、ホテル フォルトゥーナ 東京で結婚式を挙げた。

小雪のお腹に小さな命が宿ったのは、そのすぐ後のことだった。
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