魔法のいらないシンデレラ 3
「優也くん、お庭はたくさんのお花が咲いてるよ。どんなお花か見てみようね」

そう言いながら、小雪は優也と、ロビーとは反対方向へと通路を進む。

託児所とは言え、ここは高級ホテル。
ロビーの雰囲気を壊さないよう、小雪はいつも遠回りをしてロビーを避けていた。

小さなドアを開けて渡り廊下に出ると、そこから庭園に繋がる小道を進む。

「お外は気持ちいいね!深呼吸しようか」

気持ちを落ち着かせて、ゆっくり庭園を見て回ろうとしたが、やはり優也はまだ元気が有り余っている。

小雪は、優也が走り出さないようにしっかり手を握った。

良く手入れされた日本庭園の一角は、足元に飛び石が埋め込まれ、細い道がクネクネと続いている。

優也は、ぴょんぴょんと面白そうに飛び石を踏み、小雪は手を持ち上げるようにして手助けする。

すると、ちょうど石の角を踏んだ優也が、バランスを崩した。

「おっと、危ない」

小雪は両手で優也を支える。

「足元、石があるから気を付けてね。踏み外すと、転んでケガしちゃうからね」
「うん」

優也の返事に頷くと、小雪はまた歩き出そうと一歩踏み出した。

その足は、ちょうど飛び石の縁を踏む。

グキッ…

足首に嫌な感覚を覚えた後、小雪はズザーッとじゃり道に倒れ込んだ。
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