魔法のいらないシンデレラ 3
「知ってる?総支配人ってどんな人か」
「あ、はい。ロビーを颯爽と歩いていらっしゃるのを何度かお見かけしました。背の高い方ですよね?イケメンの下僕を連れていらして…」

思わず山下は、飲んでいたお茶を吹き出しそうになる。

「ゴホッゴホッ、イケメンの下僕って!ゴホッ、あはは!」

むせ返りながら、笑い転げる。

「え、あの、何かおかしいですか?」
「おかしいよ、おかしすぎるよ。イケメンの下僕…上げといて落とす!みたいな。あはは、かわいそう早瀬さん」

涙を滲ませながらひとしきり笑った後、山下はようやく落ち着いた。

「あの人はね、秘書だよ。総支配人付きの優秀な秘書。早瀬さんっていうんだ」
「あ、秘書。なるほど、そうですよね。下僕な訳ないですよね。私、会社で働いた事がないから、部長とか課長とか、そういうカタギの世界を知らなくて…」

山下は、再び喉を詰まらせる。

「ゴホッ、カタギって、君、ゴホッゴホッ」
「だ、大丈夫ですか?」

小雪の差し出したペットボトルのお茶を、山下はゴクゴクと飲む。
< 59 / 236 >

この作品をシェア

pagetop