魔法のいらないシンデレラ 3
「それでね、これがしんかんせん。びゅーんて、とてもはやいの。それに、アイスクリームもたべたの!」

すみれはクレヨンでお絵描きをしながら、興奮冷めやらぬように小雪に話してくれる。

「新幹線、上手に描けてるね!アイスクリームもおいしかった?」
「うん!すごーくおいしかった。それでね、ホテルのおへやもひろくてね…」

スケッチブックのページをめくりながら、すみれは次々と絵を描いていく。

「あら、これは誰かしら?」
「きよじいじ!それと、ひいおばあさまと、れいかおねえさん」
「へえー、すみれちゃん、色んな人に会えたのね。みんなニッコリしていて優しそうなお顔ね」
「うん!みんな、とてもやさしいの」

そう、と小雪は微笑みながら見守る。

「すみれちゃんのお話を聞いてると、なんだか私まで嬉しくなっちゃう。楽しい旅行で良かったね」

うん!と笑顔で小雪を見上げた後、すみれが、あ!と入り口のガラスの扉を指差した。

「かなおねえさん!」

小雪も振り向くと、美容室で働く叶恵(かなえ)がこちらに手を振っているのが見えた。

他のお子様がいないか奥を覗き込んでから、だいじょうぶ?と口を動かして小雪に尋ねる。

小雪が頷くと、叶恵は嬉しそうに部屋に入って来た。

「すみれちゃーん!」
「かなおねえさん!」

すみれは、両手を広げた叶恵に駆け寄ってギューッと抱きつく。

「元気だった?しばらく会えなくて寂しかったのよー」

叶恵はすみれの顔に頬ずりして抱きしめる。

こんなふうに叶恵は、他のお子様がいない時は、すみれに会いにナーサリーに立ち寄る事がよくあった。
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